4 私のルーヴル  16 エビ足の少年、乞食の子供

 

「エビ足の少年」

フセペ・デ・リベーラ 1642年 油彩・画布 164×92cm

この絵の少年は、頭部から推定される年齢に比べて、五頭身程度と体躯が小さいので、或いは倭人であろうか。またエビ足と呼ばれるゆがんだ短い右足や、口元からのぞく病的な歯茎、さらにはおそらくは帽子を抱える右手にまで、何重にも障害を抱えている。これらは貧困に加え少年に課されている生の過酷さを物語るものだ。

だがそれにも関わらず、誰しもこの絵が醸し出している雰囲気は悲惨や重苦しさと無縁であることに気づくだろう。それというのも、少年はここで、彼になじみに場末の片隅を占めているのではなく、風景に囲まれ、広々とした空を背にして描かれているからである。画中では、地平線が低く設定されているため、少年は空にそびえ立っているように見え、またその姿には堂々たるモニュメンタリティが与えられている。

しかも彼は、屈託のない笑みを浮かべて観者を見つめ返しており、少年にとって歩行の必需品である杖を、銃を担ぐ兵士のポーズをまねえ、楽々と陽気に担いでみせている。不幸な境遇にあるはずの少年は、何故こうも陰りのない笑みを浮かべ、空を背にして堂々たる姿で描かれたのだろうか。その秘密は、少年が杖と共に左手に携えている紙片の文字〈DA MIHI ELIMOSINAM PROPTER AMOREM DEI〉に暗示されている。紙片にはラテン語で「神のお慈悲として、私に施しを与えたまえ」と書かれているのだ。紙片の文字はこの絵の少年、つまり運命に虐げられた貧窮者に対して慈善を施すよう人々に促している。

このメッセージは、実はカトリックの救済の教義に基づくものであり、慈善行為は魂の救済を実現するための、有益で重要な行いであるとする思想を反映したものなのである。−朝日美術鑑賞講座3 17世紀バロック絵画@ 松井美智子−から

 

「乞食の子供」

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ 1645−50年頃 油彩・画布 137×115cm

この作品は、現存作品の中では彼の最初の風俗画として知られている。ぼろを纏い、汚れた足をむき出しにした少年が、部屋の片隅で無心に蚤をつぶしている姿をとらえている。床に散らばるコエビや、籠からのぞく果物や壷は、少年の孤独で貧しい食事を物語っていよう。

彼は、背壁を真っ黒な影に閉ざすほど強烈な、太陽の眩しい光にさらされている。この強烈な明暗の対比は、見捨てられた少年の孤立感を強めており、またうつむいた無心な表情やポーズと相まって、、情景に憂鬱でうら悲しい雰囲気を与えている。簡素な色彩と重たい筆触も、その印象を一層強めている。

この絵は、セビーリャ派の絵画伝統に根ざした、ムリーリョの初期の自然主義的な画風をよく伝えており、また彼の風俗画の中では、最もペシミスティックな作品なのである。−朝日美術鑑賞講座3 17世紀バロック絵画@ 松井美智子−から

 

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