マネの部屋

オランピア(130×190cm) 1863年

1865年のサロンに出展されたこのベッドに横たわる女性の奇抜な図像に対して嘲笑や、侮蔑、嫌悪感が投げかけられた。絵の中の女性は物憂さなど少しも見せず、むしろ昂然とし、彼女を感嘆の目で見つめる男の方に視線をやっている。『オランピア』は罵詈雑言を浴びた。この「申し分のない醜さ」を持った「黄色い腹のオダリスク」がパリのその時代の娼婦の姿に他ならなかったからだ。その部分をとってもその事実は動かし難強調する首に巻かれリボンや、ミュール(踵の高いサンダル)、体の中央に置かれた手の位置、花束を渡そうとする召使いまでがそうだ。だいたい、この花束も客からの贈り物ではないのか?そして猫までいる。「ベッドの上に泥だらけの足跡を付ける黒猫」とデオフィール・ゴーティエが書き残している猫だ。

-オルセー美術館見学 ORSAY-から

 

草上の昼食(208×264cm) 『水浴』のタイトルで1863年の落選展に展示された

1863年、『落選展』の入り口には、サロン(官展)で落選となった作品がどのようなものか見たいという物見高い人々が殺到した。そして『水浴』と題する作品が人々にショックを与えた。「裸婦と着衣の紳士達を組み合わせた主題はもとより、このしまりのない雑な描き方はいったい何だ?だいたいこの絵は本当に完成作品といえるのか?」これが人々の感想だった。20年後、エミール・ゾラは、友人であった画家マネに浴びせかけられた嘲笑の幾つかを『作品』という小説の中に引用している。「ご婦人は暑すぎたが、殿方はビロードの上着を着たまま。風邪をひくのが怖いからだ。それは違う。ご婦人は寒くて青くなっている。この殿方が彼女を池から引き上げたのだ。そして鼻をつまんで、彼女から離れて休息している。礼儀知らずだ、この男は!もっと別の顔をして見せてもいいのに。」

-オルセー美術館見学 ORSAY-から

この作品がスキャンダルの対象となった理由は、画法と登場人物などの配置にあったと思われる。3人の人物がピクニックを楽しんでいるが、おそらくパリ近郊のセーヌ川沿いのアルジャントウーユの森か、あるいは島であったかもしれない。クールベの『セーヌ河畔のお嬢さんたち』のように、画面の右上方にはボートが描かれており、また、前景左隅には女性が着用していた淡いブルーの衣装が敷かれ、そこに竹籠がややわざとらしく転がされている。ある美術史家が示唆しているように、描法は水彩画か日本画にきわめて似ており、チェリーや桃の彩色が鮮やかで、フランスパンの塊などは見事な瞬間的画像としてとらえられている。 (中略) 要するに問題は、画面の登場人物や場所が作品を見る人々の間近に位置し、描かれている人物や服装、肌の色合いなどが、見る側の人達と殆ど変わらないことに起因する。人々は神話や夢などの情景ならば如何に「写実的」であってもこれを受容する。

 

しかし、自分たちと同等の「現代生活」の中で描かれた場合には、眉をひそめて立ち去り、その生々しさに鋭い拒絶反応を示したということではなかろうか。ここにマネの現代性の見事な一端が現存しているのである。

−朝日美術鑑賞講座 7 19世紀近代絵画A 近藤 昭 −から

 

エミール・ゾラの肖像(146×114cm) 1868年

 

気分はパリジャントップ     クールベ